・プロローグ
 ある日のこと…

 俺は珍しく帰るのが遅くなり、暗くなった夜道を一人家へ向けて
 歩いていた。原因となった幼馴染の事を恨みながら、俺は歩を進め
 ていく。
 程なくして公園へと到着する。公園を抜ければ自宅までは早くて
 7分、かかっても10分程度の距離だ。

 「……」

 静まり返る公園、辺りには風に靡く草の音だけが木霊している。
 雲ひとつ無い晴れ渡った夜の空。そこに浮かぶ月の僅かな光が、
 公園を不気味に浮かびだしていた。

 何か根拠があった訳ではない。だが何か嫌な予感がした。

 俺は何かに駆り立てられるように歩を早める。ただ、早くこの場から
 立ち去りたい、そんな気持ちが心の中に浮かんでくる。

 俺は気を紛らわせるために、時計へと視線を移した。公園に入って
 から5・6分程度の時間が経過している、そろそろ公園を抜ける
 はず、だがその時…

 「…ん?」

 俺の視界に何か人影のようなものが映る。その影を追い、遠くに
 見える建物へと視線を移す。

 そこには見慣れない制服を来た女の子が立っていた。女の子は
 ジッと何かを睨みつけていた。

 「…なんだ、あれ?」

 そう思った瞬間、少女に黒い影が襲い掛かる。何やら金属音と
 別に鈍い音が聞こえたかと思うと、女の子の手には刀のような
 ものが持たれていた。

 「……」

 斬ったのだ。右手に持たれた少し長めの刀のようなもので、襲い
 来る黒い影を切り裂いていた。

 女の子に切り裂かれた黒い影が、俺の近くにドサリと落ちる。

 「…な…んだ……これ…」

 鋭く長い爪……黒い影の醜態は、曰く形容し難いバケモノだった。

 「グルゥアアアア…!」

 俺に気がついたバケモノが俺を睨みつける。俺は事態が飲み
 込めず、ただその場に立ち尽くすのみであった。

 「…あ…あ……」

 動揺しながら一歩・二歩と後ろに後ずさりする。だが俺が何かを
 する前に、バケモノは俺の目の前まで一気に間合を詰めた。

 そして次の瞬間、月明かりに輝く鋭い爪が…俺の喉元に向けて
 もの凄いスピードで襲いかかった……

 「……!!」

 「……」

 「…え……?」

 目の前には…一人の女性が片膝をつき、刀を構えてていた。
 そして、その後ろには……

 「グ…ウグギ……ガァァ……」

 あの化け物が…見るも無残な姿になり、地面に横たわって
 いた。

 「…っ!」

 あまりの姿に俺は口を押さえた、だが目の前の女性は顔色
 一つ変えず、俺を見つめている。

 「………」

 「あ…、え…!?」

 少し前まで苦しそうな呻き声を上げていたそれは、ピクリ
 とも動かなくなり…まるで水が蒸発するように、赤い霧
 のようなものを噴出して……完全に消滅した。

 「な…い…ったい……」


 「………」

 目の前の女の子はスッと立ち上がると、俺のほうをジッと
 見つめる。


 「…っ!」

 女の子の右手が一瞬光ったかと思うと、その手に持たれていた
 刀は、その姿を消した。

 「ぁ…あ……」

 体が震えているのが解る。目の前にいるのは…確かに人間の
 筈、だが………

 あんな化け物を、それも一瞬で倒してしまうような者が……
 本当に人間…なのか……

 あの化け物と同様に、俺は目の前の存在に恐怖していた。

 「……貴方。」

 女の子が口を開き俺に話しかける、だが…

 「あ……ぁ…あ…」

 俺はとても話を聞けるような状態ではなかった……

 「貴方……見えていたの、あれが?」

 「あ……ぁ…」

 俺は震える脚を何とか動かし、彼女から離れようと後ずさり
 した。

 「答えなさい、貴方あれが……」

 「いえ、聞く必要は無いわね。あれが貴方を襲った事が…
 その証拠。」

 「あ……ぁ…く、来るな……」

 「来るな……一体…一体……俺に…」

 「落ち着きなさい、私は貴方に………」

 「来るな…来るな……!!」


 「うわあああぁぁぁぁ!!!」

 俺は叫び声と共に目を覚ます。夏でもないと言うのに、俺の額には
 大粒の汗が浮かび上がっている。

 「…また、あの夢か。」

 俺は上体を起こしたまま溜息をつく。このところ、この変な夢ばかり
 見ている。

 この変な夢を見始めるようになったのは一週間程前からだ。一体
 なんでこんな夢を見るのか……俺には解らなかった。

 そういえば丁度一週間前、学園に帰るのが遅くなって……公園
 まで来たのは覚えているのだが、そこから先の記憶が無い。気が
 ついたら朝で、俺はベッドの上に寝ていたのだが……その時の事と
 何か関係があるんだろうか…

 「…」

 とは思いながらも、夢に出てくるような非常識な事が現実に起こる訳も
 無く、まぁきっと、ストレスか何かのせいだろう。

 俺はそう話を締めくくると、着替えを済ませ、学園へと向かった。

 程なくして学園へと得着する。

 何時もと変わらない幼馴染達との会話。そんな中、俺は夢の事
 などすっかり忘れ、何時もの調子を取り戻していた。

 俺は適当に話を切り上げると、そのまま校舎へと入っていった。

 講義を終え、俺は講義室を後にする。

 今日は何故か妙に眠たかった。俺はゴシゴシと目を擦りながら
 帰路を急いだ。

 (ドンッ!!)

 廊下の角を曲がった瞬間、勢い良く正面の女の子と衝突する。
 そのまま俺と女の子は廊下の床に倒れる。

 「あ、ワリィ、大丈夫か?」

 俺は申し訳なさそうにしながら、女の子に手を差し伸べる。だが
 女の子は手を取らず、そのまま一人で立ち上がった。

 「悪い、ちょっと急いでたもんで…」

 俺は目の前の女の子にそう言った。女の子は無表情のまま、
 俺を見つめている。

 「あ、あの…」

 俺はどうしたら良いのか解らず、声をかけようとする。だが、俺が
 何かを言う前に、女の子はボソリと子を発した。

 「貴方、私の事……」

 「…え?」

 「……」

 「そう…その様子では忘れたようね……」

 「…?」

 女の子はそれだけ話すと、背中を向けその場を立ち去ろうとする。
 だがその瞬間、俺の脳裏に何かが浮かび上がってくる。

 「な…なんだ…?」

 俺は女の子とは初対面の筈、それなのに俺の脳裏には女の子の
 姿が次々に浮かび上がってくる。

 そして次の瞬間、俺は全てを思い出す。あの日の事を…あの夜の
 公園の事を……


 全てを思い出した俺は、その場から猛ダッシュで立ち去る。

 校舎裏まで逃げると、俺は息を整えながら記憶を整理した。

 「…そうだ、あの日…」

 俺は公園を歩いていた。そしてあの女と……

 だが、あんなことが現実に起こりえる筈が……だが…確かに
 あの姿は……

 濃い真紅の瞳
       透き通るような銀髪
                どれもこれも……
                        あの時と同じだ……

 見間違いなんかじゃない。あの女は確かに……じゃぁ、あの夢は
 ……夢なんかじゃなくて……

 混乱する俺の目の前に、突然あの女が現れる。女は建物の3階
 飛び降りると、フワリと地面に着地した。とても人間技ではない。

 女と少し言葉を交し、敵意がない事を確認した後、あの日の事を
 質問する。だが、女は何も答えなかった。

 そして背を向けると、最後に一言…こう言った……

 「あの時の事が知りたければ、今日の21時に…あの公園で
 待ってるわ。」

 そう言い残し、女は姿を消した。俺は混乱する頭を何とか整理し、
 自宅へと帰っていった。

 自宅へ帰り、女の言葉を一つ一つ思い出していく……そして
 俺は、ある行動を起こす事になる。それが自分を、戦いの日々
 へと巻き込んで行くことも知らずに……

・ゲーム概要
人の夢を食い時には人そのもののに取り憑き、その夢を荒らす夢魔。
夢魔は人の目には見えず、触れることすらも出来ない。
だが、一部の特殊な能力を持つものには、その姿を見ることが出来た。
その夢魔達の動向が妖しくなって来た事をある者たちが感づき始める。
怨霊・魂の浄化などを専門とするエクソシスト、その団体である「教会」と、それ以外の人ならざる魔を
滅ぼす者クインシー、その団体である「境界」。
専門外である教会は境界に夢魔の動向調査を一任し時は数年経過する。
そして夢魔達が500年に一度起こると言われている「真月の夜」に何かを行おうとしている事を
境界は知る事になる。
夢魔達が何を行おうとしているのか、その目的の調査と計画の撲滅の為、境界のクインシー達が
立ち上がる。
物語はここから始まる・・・
 
各々、其々の思いを胸に・・・・夢魔との激しい戦いが始まろうとしていた。
・「境界」と「教会」について
遥か昔、退魔を専門としていた団体、「教会」があった。
だが、「教会」は時を経て分離し、「教会」の中でも戦闘に特化したエクソシスト達が「境界」という組織を
作り出す。
組織名は「Boundary」(バウンダリー)。仮想世界と現実世界の「境界」を守る者という意味でつけられて
いる。
「境界」とは別に存在する「教会」という団体の戦闘能力に長けた悪魔払い(エクソシスト)がクインシーに
なって言った事から、昔はチャーチと呼ばれていた事もある(教会内にも境界のクインシーと同等の力を
有する者が存在する)現在、「バウンダリー(境界)」と「チャーチ(教会)」は、完全に別団体で専門(管轄)
も異なる。互いの管轄は以下のように分かれる。
 バウンダリー(境界):固有意思を持った人ならざる者の滅殺
 チャーチ(教会):人間の魂から生まれた悪霊等の成仏・消滅
・クインシーについて
特別な強い力(霊力)を潜在的に持ち、訓練によりその力を使いこなせるようになった者の呼称。
エクソシストとは悪魔払いを主とした能力者である為、固有意思を持った魔を滅する彼らは
エクソシストではなくクインシーと呼ばれている。
・夢魔について
夢魔は元々「ロード・オブ・ナイトメア(夢魔)」一人であったが、増幅したナイトメアの力により、他の存在が
生まれたことから、現在においては総称して夢魔と呼んでいる。
(通常、夢魔=ナイトメア だが、「夢魔」は総称、「ナイトメア」は単一の呼称と言うように、切り分けて
考えられている)
夢魔は通常、仮想世界におり時折迷い込む人間の精神(夢・悪夢)を吸収する事で生存・成長している。
精神を吸収しない夢魔は時と共にその力を弱めてしまう為、彼らは常に人間の精神を欲しているが、
上級・最上級の夢魔は巨大な力(精神)を有する為、これには当てはまらない。
(衰えてはいくが、力が巨大なだけに普通に生活している(力を極端に消費することをしない)分には
問題ない)
夢魔はナイトメアの力の破片からなる精神体なので、500年に一度訪れる「真月の夜」にのみ生まれる。
生まれたばかりの夢魔は力が弱く、現実世界に体を留めることが出来ない為、仮想世界へと引き込まれる。
通常夢魔は5年〜300年程度生きると殆ど寿命で息絶えてしまうが、ナイトメアから強い力(大きい精神体)
を引き継ぎ分散した夢魔はこれを遥かに超える長寿となる事がある。
長く生きた夢魔は力と共に、人間の夢から採取したあらゆる情報を有し、高い知能を備え、その一部は
空間の境を越え(歪を作る)現実世界へと移動できる者もいる。
夢魔は闇に生きる精神体であり、昼間はその力を弱める。
人間に憑依している状態ならば、力は弱まるものの昼間に行動をすることは可能となる。